今年度宝島社『このミステリーがすごい』大賞には『元彼の遺言状』が選ばれた。「剣持麗子」なる若い女性弁護士が主役で、彼女の「元彼、森川栄治なる男」が死んだが「自分を殺した犯人に全財産を渡す」という世にも奇妙な遺言を残していた。栄治は大製薬会社の御曹司で遺産は数百億、親族では「犯人選考会」なる組織を作ってその犯人=相続人を決めようとなる。麗子はその相続人を目指す従兄弟の銀治の代理人も密かに務めた。日本の法律上、遺言は絶対的効力を持つが、遺言者を殺した人は相続できない(民法891条)。麗子は性格も強く、金銭欲は人一倍、人間味はある。製薬会社の権力闘争、複雑な家族関係も見逃さない。結末は全く意外なところにあった•••       

 著者は「新川帆立(ほたて)」なる29歳の女性、新人で大賞を受賞したことになる。アメリカ生まれ、九州宮崎の田舎で育つ。東大法学部を出て弁護士になる。夏目漱石「吾輩は猫である」に憧れて作家を目指す。今は作家専業という。趣味に学生時代はプロ麻雀士として稼ぎ、囲碁も大学囲碁部に所属したという。       

 著者「新川帆立」の経歴は、実は私(原田)と似ている。私も東大を出て、(国会議員だが)弁護士もしている。青年時代はアメリカにも行き、九州福岡の田舎で育つ。囲碁、将棋は有段者であって、麻雀についても若い頃(通産省時代)、「天和(てんほう)」という奇跡を起こし職場で大騒ぎになったこともある。東大出て活躍している女性は世にごまんといるが、ただ女性で麻雀、囲碁まで本格的な人は聞いたことがない。      

 学歴キャリアが酷似して、まして趣味まで共通するとは如何なる人物か。私が著者に強い関心を持ったこと、人生と東大の先輩だと、遥か後輩に密かに高を括ったのも無理はあるまい。しからばどの程度の作品か、本屋に寄って手にしたのが、この本『元彼の遺言状』。      

 主人公剣持麗子は著者新川帆立その人であろう。殺人者を相続の対象にという超奇抜な設定から始まり、自分が相続人たる人間の代理人ともなる。状況説明と人格表現は微に細に入る。相続ミステリーは人物も多い、相続の手続きは複雑である、易しく解説を加える、本職弁護士でないとここまでは出来ない。かくして読む人には暇を与えない。その発想力、文章力、筆力には選者揃って激賞する。金融界や製薬業界への専門的調査、分析力。僅か2週間で書き上げたとする集中力。第一作にして底知れぬ才能を窺わせる。      私は作家の持つ鬼気迫る人間力にただ素直に脱帽したものだ。